195131 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

milestone ブログ

milestone ブログ

メール 7通目

~メール7通目~

「もう一度あなたに会いたいの。
パンドラの箱。
もう、開け方はわかった。
あなたは開けてくれる?」

優子からの最後のメールだ。
どうして7通なのかはわからない。
けれど、パンドラの箱はなにか。

手にもっていたCDを見る。
指輪はちょうどアルバムの『天体観測』付近に貼り付けられている。
なんだろう。
はがしてみる。
指輪だけしかそこにはなかった。

パンドラの箱。

***************************

(普段からあいていない 鍵がかかっているもの)

良が言っていた普段からあいていないもの。
いったいこの部屋になにがある。

***************************

良のメモを思い出した。
あいていないもの。
鍵がかかっているもの。

『天体観測』

いったい何をさしている。
窓を開けてみた。
ここからじゃ星は見えない。
いや、確かに窓には鍵はかかっているが、普通にあけられる。

開け方がわかる?って優子は聞いている。
そう、開けかたが難しいもの。
箱、箱、箱。
見つからない。

座って水を飲む。
飲みなれないウイスキーのせいで頭ががんがんする。

CDでも聞いてみるか。
中を開けてみる。

もしかしたらメモがあるかもしれない。
そう、思った。
けれど、その期待は外れた。
ごく普通の歌詞カード。

CDを取り出す。

そういえば、この部屋にはコンポもCDプレーヤーもない。
パソコンで優子は聞いていた。

パソコン。
今、このパソコンは動かせない。
そう、パスワードを入力しないと。

鍵のかかった箱。
それはパソコンのことではないのだろうか?

パソコンの電源を入れる。
キーボードを動かす。

「tentaikansoku」と

エラー音も出ない。
そのまま、Windowsが立ち上がっていく。
これが、優子の言っていたパンドラの箱なのだろうか?
そして、いったい優子は何を見せたかったのだろうか?

そして、そして、優子は私をどこに導こうとしていたのだろうか?

立ち上がったパソコンの画面には『亮くんへ』というフォルダーがある。
フォルダーをクリックする。
寒くて手がかじかんできている。
どうにかしないと。

目に入ったのはベッド。
中に入ればまだ寒さはしのげるかもしれない。
ベッドの中に入る。
ちょうどいいところにパソコンがある。

前からこの位置にテーブルはあったのだろうか?
いや、なかった。
そう、優子の部屋に入って感じた違和感。
家具の位置が違ったんだ。

優子もこうやってパソコンを触っていたのだろうか?
明かりを一つけす。
ちょうどいいところにネコのぬいぐるみがついた紐がある。

フォルダーをクリックする。
すると中にはRealplayerのソフトが。

クリックしてみる。
再生がフルスクリーンで始まった。

見えにくいため、明かりを全て消した。

***************************

「亮くん。
 ごめんね。
 怒ってるかな?
 私、実はいっぱい、いっぱい亮くんに、隠し事してたの」

優子の顔がアップで再生が始まる。
やさしい優子。
私にはひょっとしたら優子しか頼れる人はいなかったのかもしれない。

「でもね、ちゃんと話したかった。
 でも、ようやく会えてよかった。

 あのね、私二重人格だったの。
 昔、両親が殺されて、目の前で殺されて。
 私、怖くて隠れてて。
 その現実をなかなか受け止めれなくて。
 それで、二重人格になったって。
 加賀谷くんに言われたわ。

 もう一人の私。
 名前は『翔子』っていうの。
 もう、亮くんは『翔子』の存在は知ってるよね。
 『翔子』は私の両親が殺されたのは自分のせいだと思っていたの。
 だから、自分を傷つけることをしていたの。
 私、自分が知らなかったといえ、亮くんにふさわしくない女性になっていたの。
 キャバクラで働いていたり、ほかの人とセックスしたり。
 でも、信じて。
 私、本当に亮くんのことが好きだったの。」

泣いている優子。
気がついたら私も泣いている。
頬にぬいぐるみのネコがあたる。
首で押さえてみた。

「いっぱい、楽しい思い出を過ごせたよ。
 本当、亮くん忙しいのに時間作ってくれて。
 うれしかった。

 『ピンクパンダ』『トリトンスクエア』そして『東京タワー』
 いっぱいの思い出に包まれていたわ。
 私、弱かったのかな。
 なんか、うまく伝えられないね。
 ホントはもっと言わなきゃいけないことあるのに。」

優子の顔があまりにもきれい過ぎて。
まるで、目の前にいるのような錯覚。
少し前に飲んだウイスキーのおかげで頭が朦朧としている。

ホント、こいつぐずなんだから

いきなり優子の声が変わった。
これが、良の言っていた『翔子』なのか。

優子より少し声が低く、自信のあるその声にはどことなく、威圧感が。
そして、どことなく自虐的なイメージを持った。
翔子は話し続けた。

今回、優子はあんたに言わなきゃいけない『真実』を言おうと決めたんだ。
それは、『優子』も『私』もすごく悩んだことだった。
けれど、この体は『私』のものでも、『優子』のものでもないんだ。
でも、『3人』で決めたんだ。

まず、あんたの親友、加賀谷良とのつながり。
おそらく、『優子』が送ったメールを相談するのは加賀谷になるだろう。
自力で理解をするとは思っていなかった。
いや、『優子』は違ったが私はそう思っていた。

案の定、ここにたどり着くまでに時間がかかった。
けれど、私は時間をかけてここに来てほしかった。
だから、わざとややこしいメールを書いた。
そう、あんたにどれだけ『優子』があんたを大事にしていたのかということ。
そして、どれだけ真剣に悩んだ末のことなのかをわかってほしかったんだ。
そして、私自身にも責任があることなんだ



いつもは見慣れない、大きなボディーランゲージの『優子』
実際中身が『翔子』と変わるだけで別人に見えてくる。
怖いものだ。

私『翔子』と『加賀谷』は簡単にいうと恋に落ちたんだ。
相談者に恋愛感情を抱く。
初歩的なミスであるし、プロとしては失格だ


翔子の言葉が一瞬理解できなかった。
あの良が。
まさか。

おそらく、信用しないだろう。
でも、これを見たらわかるだろう


そう、翔子が言って、画面が動いた。
テレビだ。
そこに移っているのは優子の部屋。
そして、ベッド。
そこにいるのは『優子』と『良』

信じない。
こんな現実、信じない。

「やめて、こんなの見せないで」

高い声がする。
『優子』の声だ。

「ごめんね。ごめんね」

優子の声が響く。

ウソだ。
そう信じたかった。

ウソって信じてもいいよ。
逃げてもいいよ。
でも、『優子』はこのことを知ってから苦悩が始まったんだ


低い声が響く。
『翔子』だ。

翔子がまだ話し続ける。

逃げたいきもちはよくわかる。
今までの良の助言、考えてみな。
どこかに違和感はなかったか?


言われて思うこと。
そう、確かにどこかに理由なき違和感はあった。
始めに相談したとき。
次に相談したとき。
情報があるのに、まるで隠していた。

違和感はあった。
それを見ないできただけだ。

逃げるなとはいわない。
けれど、その重圧を受け止めて『優子』はきたんだ。
それを少しはわかってあげてほしい


低い声が響く。
『翔子』だ。
それと同時に何かのメッセージ。
何?
頭の中に響く文字。



なんだ、この感じ。
先に進もう。

「だから、私きめたの」

高い声が響く。
『優子』だ。
いつも優子は泣いている。

「だから、私、亮くんと別れようって決めたの。
ホントはとてもいやだった。
別れたくなかった。
でも、このまま何もなかったって。
そんなの無理って」

泣いている優子。
私の涙も止まらない。

そして、頭に響くイメージ。

ネコ

なんだ、この感じ。
わからない。
先に進もう。

そして、私も決めた

低い声が響く。
『翔子』だ。

良との関係を終わらせようと

「だから、私たちはすべての思いを持って。
去ろうって決めたの」

高い声が響く。
『優子』だ。

さらに優子は話し続ける。

「でも、この想いだけは。
亮くんとの想いだけは忘れられたくない。
そう思ったの。
だから、わかって」

優子の声が優しく響く。
そして、頭の中に響く映像。
そして、言葉。

首吊り

優子、解ったよ。
今、ようやく解ったよ。
すべては、このためだったんだね。

気がついたときは首に紐が絡まっていた。
自分の首の重さで紐がしまる。
それほど、苦しくもない。

「あなたと私は」

高い声が響く。
『優子』だ。

「一つになるの」

あなたと私は一つになるの

低い声が響く。
『翔子』だ。

「だから」

高い声が響く。
そして、画面が切り替わる。
うっすらと『優子』の笑顔が見える。

「だから、苦しまないで」

高い声が優しく響く。

ああ、ようやく『優子』に会えるんだね。
長い夢を見ていたんだね。

「これは始まりよ」

高い声が響く。
やさしいこえ。
『優子』の声。
徐々に視界が暗くなっていく。

うっすらと、残りのrealplayerの残り時間も見える。
後少し。

「まずは私の部屋
そして、次はようやく二人が出会える場所よ」

高い声。
優子のこ…え…
かすかに視界の中にディスプレーが見える。
笑いかけている優子の顔。
そして…もう一人。

どうして、
そこにはありえなり人物が映っていた。
けれど、もう、どうすることも出来なかった。

その日の夜は長かった。


[次へ]


エピローグへ移動


© Rakuten Group, Inc.